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龍神さん?【後編】 瑠璃色の蝶とミツバチ

  • 12 時間前
  • 読了時間: 6分

※前編はコチラです。 私は本堂へ向かい、開け放たれた扉の外側で軽くご挨拶をし、そのまま牛馬慰霊碑へ向かった。この慰霊碑がある事は最初はわからなかった。そして見つけたとき、なんだかとても大切なものに思えて、私は必ずこの碑の前で手を合わせている。

その昔、この地に屯田兵が入植し、多くの牛や馬たちが人間とともに、人間のために働いてくれたのだろうと想像している。彼らのおかげで私たちは北海道の地を開拓し、その子孫として、今この地で栄えている。ありがたい。牛さん、馬さんは屯田兵と同じように、大変な苦労を強いられ、ある意味、犠牲となってくれた。この神社のそばには、様々な歴史的な遺物が残っており、開拓に関する記念館まである。おそらくこの地は古くから重要な場所だったのではないかと思う。

牛さん、馬さんのスピリットが安らかに在りますように。 この三次元に生きている牛さん、馬さんたちとも、交流を深められますように。 いつものように感謝と祈りを伝えた。

さて、一通り参拝が終わったところで、私の足はなんとなんとなく裏道から公園へ向かっていた。急な裏階段を上り、公園の敷地内に入った。緑のトンネルをくぐり、小さな原っぱに出たが、その向こうの遊歩道へ行く気持ちが湧いてこない。

私は振り返り、太陽を仰いだ。 さっきまで曇っていた空は、ずいぶんと晴れ渡り、あれほどたくさん見えた龍神雲は、残り一体だけだった。

私はぼんやりと空を眺めながら、なんとなく、瞑想的な状態になっていた。 感謝が溢れる。 ただ、ただ、生かされている私。 その安らぎ、静かな幸福。 私はとてもここちよく、原っぱに立っていた。

ふと、右の草むらに目が留まった。 目線よりも少し低い位置にある、6、70センチほどの葉っぱの上。私の視線がそこに焦点が合うタイミングで、小さな蝶がゆったりと羽を広げた。

美しい瑠璃色が目に飛び込んできた。紫とコバルトブルーのグラデーションが美しい。表面は、つやりと光沢があり、私の目は蝶の羽に釘付けとなった。蝶はしばらく羽を水平に広げたまま、その鮮やかな色彩を、私に堪能させてくれた。

しばらくすると、今度はゆっくりと、羽を閉じたり、開いたり。羽を閉じると、裏はなんとも地味なベージュ色。そのギャップに、私は再び驚いた。こんなに地味な、まるで蛾のような色合いなのに、内側に、これほどまでに美しい色を秘めているなんて。

蝶は、またゆっくりと羽を広げ、そして、初めからずっと、私を直視していた。私はあまりの突然の出来事に、嬉しいやら、びっくりするやら。そしておもむろに、写真を撮ってもいい?と小さな声で聞いてみた。返事はなかったけれど、駄目ではない感じがした。私は、いいかな、と言いながら、そっとポケットに手を入れて、スマホを取り出した。慎重にスマホを、目の下30cmほどまで引き寄せ、いざ操作しようとしたその途端、蝶はパッと飛び立ち、優雅に舞い、1メートルほど奥の、もう少し高い葉っぱの上に止まった。 そしてまたゆったりと羽を広げ、その美しい色を現すのだった。

こんなことって    あるんだなあ

これは自然界からのメッセージだろうか 彼らは私に何かを伝えようとしているのではないかしら

こういう事は頭で考えても絶対にわからない、と聞いたことがある。でも、もし知ることができるなら、知りたい気がする。その時の風景をふと思い出して、感じてみよう。いつかきっとわかるような気がする。

その後私は、来た道をなぞって帰路についた。 歩きながら、先日見つけた「ドクダミの原っぱ」を思い出していた。

帰りに寄ろうかな いやまっすぐ帰ろう

私はそう心に決め、スタスタと歩いた。けれど、なぜか足は道路を曲がり、ドクダミの原っぱへと向かっていた。曲がる道が一本早かったようで、私は途中でくねりくねりと細い道を渡り、そうして無事原っぱに到着した。

前回初めて来た時には、たくさんのつぼみがついていた。あれから一、二週間は経っただろうか。つぼみはほとんど開花し、見事な白い十字架が一面に広がる花畑になっていた。

私はゆっくりとしゃがみ、少しずつ腕を伸ばし、花のついたドクダミを手折り、小さな花束が出来上がったところで、ポケットからビニール袋を出して入れた。

奥には背の低いふきが、地面が見えないほど、びっしりと生えていた。そのふきの合間から、チラり、ちらりと顔を出しているドクダミさんが居た。そっとふきの葉っぱを分け寄せると、その下には立派なドクダミたちが、力強く集落を作っていた。

ある程度袋がいっぱいになり、私はもう充分だと思った。

数年前、知り合いの使用していない畑を覆い尽くす勢いで生えていたドクダミを、ご好意で採らせていただいたことがある。いくらでも持っていって、と言われ、雑草除去の意味もあったため、どんどん採った。45リットルのゴミ袋、3、4袋をパンパンにして、自分一人では持てないので、車で家まで送っていただいた。

ところが、その後の処理がとても大変で、一週間もかかった。しかも乾燥させたドクダミ茶が飲みきれず、お裾分けをする予定だったのに機会を逃し、結局多くを無駄にしてしまった。

その時の罪悪感といったらなかった。 自分が、自然界から奪うだけの醜い存在に思えて、そんな自分が悲しかったし、何よりも自然界に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

その時、私は、自らの失敗から大きな学びをいただいたと感じた。 これを教訓に、もう二度と、身の丈に合わない分は採らない。 自分が必要な分よりも、やや少なめに。 そして、心から感謝し、大切にいただこう。 そう心に誓ったのだ。

そんな訳で、もう充分すぎると感じ、感謝の気持ちをアイヌの作法で伝えた。

両手をひらひらと縦に円を描くように舞い上げながら、イヤイライケレー、と言葉を紡ぐ。手のひらを合わせ、胸の前で、左右へ何度かスライドさせながら、んんんーと、軽い咳払いのような音を喉で鳴らす。

もしかしたら、記憶違いで、正式な作法とは少し違っているかもしれない。確かこんな感じだったかな、という記憶の糸を手繰り寄せ、自分なりに、ここちよい流れで、心を込めて伝えた。

すると、どこからともなくミツバチが一匹飛んできて、ドクダミの花に止まった。そして私が帰ろうと意識を切り替えたその瞬間、ブーンと耳元で羽音が聞こえた。慌ててキョロキョロと辺りを見渡したが、ミツバチはもうどこにも居なかった。

ミツバチが、私のお礼に対して、お返事を伝えに来てくれたんだ!

私は、ふんわりとあたたかい、ゆりかごのような風に包まれた。 そして、少し透明になった体は、今度こそ、家に向かって足を動かしていた。

おわり


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