スニーカーを洗う
更新日:8月5日
私はかなり頻繁に靴を洗う方だと思う。 毎日同じ靴を履いている場合は、多い時は週に一度、少なくとも二週に一度。 泥だらけになる訳ではないのだけれど、なんとなく、薄汚れているような、足を入れるのが少し躊躇われるような感じになるので、その感覚が出てきたら近いうちに洗うようにしている。
たしか昨年の夏、スニーカーを二足、新調した。一足は靴紐がゴムになっていて、紐を結んだり解いたりしなくても、少し引っ張ればゴムが伸びてそのまま履けるタイプ。すごく便利だ。もう一足は、手軽なランニングシューズ。履き心地と色合いが気に入っている。
購入後は、ゴム紐タイプの靴の履き心地に魅了され、こればかり履いていた。
この新しいスニーカーの前にどんな靴を履いていたのか、思い出そうとしても全く思い浮かばない。おそらく購入後に処分したのだろうと思う。こんな風に、過去を完全に切り離すことができる私の性質。我ながら清々しい。
私にとっての”靴問題”の始まりは、4、5年前。なんとなく靴が汚れているのが居心地悪く、最初は、靴の底をウェットティッシュで拭いたり、さっと靴底だけを水で流していた。
水で流すのはとても良かった。が、帰宅したら毎度浴室まで靴を持っていくため、途中で土がこぼれたりして、ちょっと、うーん。また、泥水が、体を洗い清める大切な場所の床に広がるのも、うーん。
そこで、百円ショップで靴トレーを探すことにした。黒色はイヤだったので、何店舗も探し回り、白色のトレーを二枚購入した。靴トレーに水を張り、サラサラと静かに靴を揺らして靴底を洗った。汚れた水は、たしかトイレに流したと思う。これがとてもここちよく、しばらく続けていた。
そのうち、毎度水を張る手間が気になり始め、靴トレーに薄く塩を敷き詰める方法を思いついた。つまり塩の上に靴を置く形になる。これが素晴らしく良かった。いまだにやっている。唯一の欠点は、靴底に塩がついているため、玄関が塩だらけになってしまうこと。その時はあまり気にならず、むしろ玄関に毎日塩をまいて清めているここちよさがあった。時々玄関を掃いて塩を取り除けば、特に問題はなかった。
ちなみに今の家では、玄関用の箒とちりとりは使う気にならず、扉の中にしまいっぱなしになっている。そろそろ手放す時期なのかもしれない。そこで、履く代わりに、毎日簡易な拭き掃除をしている。室内をフローリングシートで掃除した後、埃で汚れた面を内側に入れ込むように畳み、綺麗な面で玄関を拭く。ここ数ヶ月で、このやり方が定着した。
靴を塩漬けにすると、洗う頻度は少なくて済む。しかしやはり気になり始めたら、迷わず洗うようにしている。最近は、スニーカー二足の他、アーシング足袋と、スリッポンと、長靴、合計五足を履き回しているため、スニーカーを洗うのは一ヶ月に一回くらい。
一足のスニーカーを毎日履いていた頃は、毎週末に洗おうと決めていたけれど、今はそのルーティンを手放した。ルーティンがあると規則正しく整うが、多すぎると義務感が生まれ、雑多になる。カラダの声と大いなる導きを信頼し、気になった時に、今なら出来るというタイミングで洗うのがここちよい。
実は昨年、スニーカーを購入した時のこと。レジでの会計前に靴クリーナーの同時購入を強く勧められた。聞くところによると、今のスニーカーは水洗いできない仕様になっているとか。水洗いして変になっても責任を持てない、と釘を刺された。革靴を綺麗にする時のように、スニーカー専用の靴クリーナーをつけて拭き取るだけの方が靴は長持ちするというのだ。
とても驚いた。時代なのだろうか、またはこの店独自のセールスなのだろうか。私は全くピンとこなくて、当然クリーナーは購入しなかった。私は断然、水と石鹸をつけてゴシゴシ洗うのが好き。水を通さないなんて気持ち悪くてたまらない。
さて、2、3週間前から、二番目に履く頻度の高いランニングシューズの汚れが気になっていた。しかし、ぐずついた天気で乾きにくいだろうとか、今日は疲れていて無理かなあとか、気が乗らないことへの言い訳が頭を飛び交い、先延ばしにしていた。
今朝は久しぶりにすっきりと晴れ渡った空。湿度もそれほど高くなさそう。毎朝の入浴前に風呂場で洗濯をするのがルーティーンになってきたのだけれど、今朝は気持ちよく衣類を洗濯しながら、そうだ、あのスニーカーも洗おう、という感じが自然と湧いてきた。衣類の洗濯が終わると、私の体は迷わず玄関へ向かった。
まずは靴を裏返し、靴底にゆっくりとシャワーをかける。思ったほど泥はついていなかった。次に靴を面向きに戻し、全体に水をかけていく。今度こそ、あまり痛めたくはない。実は、ゴム紐のスニーカーは、洗い方が良くなかったのか、生地を痛めてしまったのだ。数日間水につけっぱなしにしたせいか、またはブラシで強く擦ったせいなのか。踵の内側部分の布が少し破けてしまい、表面の色合いも少し褪せてしまった。
そこで今回はやさしく石鹸を刷り込み、そっとブラシを当て、様子をみながら軽く擦ってみた。全体的に生地がしっかりしていることもあり、全く問題なさそうだ。
石鹸の手触り、泡立ち。
シャカシャカというブラシのリズミカルな音。
ここちよい空気が浴室に広がっていく。
よし、とタライにたっぷりの水を入れ、その中に靴を入れた。くるぶし周りのクッション性のある部分を押すと、じゅわっと石鹸水が出てきた。ぎゅうぎゅうと押しては水を新しくし、水がほぼ透明になったところで終了。
我が家には脱水機がないので、出来るだけ手で押して水気を出す。べちゃべちゃだけど、これくらいで大丈夫。

窓を開けると、やさしい朝日とさわやかな風が部屋に飛び込んできた。直射日光の当たる棚の上に段ボールの切れ端を二枚置き、その上にそっと靴を置いた。
あとの仕事は、光と風に任せよう。
明日からはまた雨模様の予報なので、今日のうちにどこまで乾くかはお天気次第。だが、今日このタイミングで洗えたことが、とても嬉しい。
日々いろんなことがある。
疲れて何もできない日も、体が重くて思うように動かない日も。
そんな中で、ほんの少しのやりたいこと、ときめきを見つけた時は、迷わず1分でも2分でも自分の心に従って動いてみる。そのわずかな時間の積み重ねが、小さな充実感、小さな達成感となり、つもり積もって、きっと大きな安定感に繋がっていく。
窓の外から、雀の声が聞こえてきた。すぐお隣のアパートの軒下に巣があるようで、毎朝賑やかな家族団欒の様子が伺える。 大好きなスニーカーさんが、彼らの澄んだ声を聴きながら、カラリと気持ちよく干せてくれたらいいな。彼らの声を全身に吸収したスニーカーさんを履けば、足元から、彼らの楽しい囀りが聞こえてきそう。数日後、サッパリしたスニーカーを履き、軽やかに散歩する自分の姿を想像した。おひさまが明るく差し込んできた。 2026年7月17日 早朝のこと





